注文住宅の建築を検討する際、必ず目にする「建築面積」という用語。建ぺい率や容積率と密接に関わる重要な概念ですが、正確な意味を理解している方は少ないのではないでしょうか。
この記事では、建築面積の基本的な定義から計算方法、バルコニーやひさしの扱い、そして実際の注文住宅での活用方法まで、初心者にも分かりやすく詳しく解説します。
建築面積とは?基本的な定義
水平投影面積としての建築面積
建築面積とは、建物の壁や柱の中心線で囲まれた部分の水平投影面積を指します。水平投影面積とは、建物の真上に太陽が来たときの建物の下にできる影の面積のこと。つまり、建物を真上から見たときの面積が建築面積となります。
簡単に言えば、建物を空から見下ろしたときの面積が建築面積です。
建築面積の特徴
一般的な住宅の場合の考え方:
- 1階より2階の面積が狭い場合:1階の面積=建築面積
- 2階の方が1階よりも面積が大きい場合:2階の面積=建築面積
- 3階建ての場合:最も面積が広い階の面積=建築面積
建坪との関係
建築面積を坪に換算して「建坪(たてつぼ)」と呼ぶこともありますが、建築基準法で明確に定義されている用語ではありません。建坪は一般的に建築面積と同義で使われる言葉ですが、使用する際は注意が必要です。
建築面積と他の面積の違い
注文住宅では複数の面積概念が登場します。それぞれの違いを正確に理解しましょう。
主要な面積の比較表
面積の種類 | 定義 | 用途・重要性 |
---|---|---|
建築面積 | 建物を真上から見た面積 | 建ぺい率の計算に使用 |
延床面積(延べ床面積) | 各階の床面積の合計 | 容積率の計算、実際の居住空間の広さ |
敷地面積 | 土地全体の面積 | 建ぺい率・容積率の基準となる |
床面積 | 各階ごとの床面積 | 延床面積の構成要素 |
延床面積との違い
延床面積とは、建物各階の床面積の合計であり、建物面積といわれることもあります。たとえば2階建ての住宅の場合、1階と2階の床面積を合計したものが、その建物の延床面積です。
具体例:
- 1階:80㎡、2階:60㎡の2階建て住宅の場合
- 建築面積:80㎡(広い方の階)
- 延床面積:140㎡(80㎡+60㎡)
敷地面積との関係
敷地面積は建物が建つ土地全体の面積です。建築面積は敷地面積に対する割合(建ぺい率)で制限を受けるため、土地選びの重要な指標となります。
建築面積に含まれる部分・含まれない部分
建築面積の計算で最も複雑なのが、バルコニーやひさしなどの突出部分の扱いです。
1m後退ルールの基本
バルコニーやひさしなどの部分は建築面積に含まれるのか気になります。結論から言うと、突き出している部分が1m以下の場合は建築面積に含まれません。ただし、1m以上突き出している場合は、突き出している部分の先から1m後退したところまでが建築面積に含まれます。
建築面積に含まれない部分(1m以下の突出)
外壁から1m以内の突出部分:
- 軒(のき)
- ひさし
- バルコニー(突出部分のみ)
- 玄関ポーチ(突出部分のみ)
- 出窓(一定条件下)
建築面積に含まれる部分
以下は建築面積に算入されます:
- 基本構造部分
- 外壁で囲まれた部分
- 柱で囲まれた部分
- 1m以上突出する部分
- バルコニー(先端から1m後退した部分まで)
- ひさし(先端から1m後退した部分まで)
- 玄関ポーチ(先端から1m後退した部分まで)
- 特殊な構造
- カーポート(柱と屋根がある場合)
- ガレージ・車庫
- ピロティ(屋内的用途の場合)
バルコニーの詳細な扱い
バルコニーの建築面積算入基準:
バルコニーの形状 | 建築面積への算入 |
---|---|
突出部分1m未満 | 算入されない |
突出部分1m以上 | 先端から1m後退した部分まで算入 |
両サイドに壁がある | 壁で囲まれた部分は全て算入 |
支柱がある | 柱で囲まれた部分は全て算入 |
建築面積の計算方法
基本的な計算手順
STEP 1:各階の面積を測定
- 外壁の中心線で囲まれた面積を計算
- 柱がある場合は柱の中心線を基準とする
STEP 2:最大面積の階を特定
- 各階の面積を比較
- 最も広い階の面積を採用
STEP 3:突出部分の処理
- 1m以上突出する部分を特定
- 先端から1m後退した部分まで加算
計算例
例:2階建て住宅の場合
【建物概要】
・1階:90㎡(外壁の中心線で囲まれた面積)
・2階:70㎡
・バルコニー:1.5m突出、幅4m
・ひさし:0.8m突出、幅6m
【計算】
1. 基本面積:90㎡(1階が最大のため)
2. バルコニー:(1.5m - 1m) × 4m = 2㎡を加算
3. ひさし:1m未満のため算入されない
建築面積 = 90㎡ + 2㎡ = 92㎡
複雑な形状の計算
L字型やコの字型の建物の場合:
- 全体を長方形で囲む
- 欠けている部分を差し引く
- 突出部分を個別に計算して加算
建ぺい率と建築面積の関係
建ぺい率の基本概念
建ぺい率とは、建物の建築面積の敷地面積に対する割合です。建築面積とは建物を真上から見たときの外周で求めた面積のことで「水平投影面積」ともいいます。
建ぺい率の計算式:
建ぺい率 = 建築面積 ÷ 敷地面積 × 100
建ぺい率の実例
例:敷地面積200㎡、建ぺい率60%の土地の場合
建築可能面積 = 200㎡ × 60% = 120㎡
この土地では、建築面積が120㎡以下の建物しか建築できません。
建ぺい率の地域別基準
住居系用途地域の建ぺい率(一般的な数値):
用途地域 | 建ぺい率 | 特徴 |
---|---|---|
第一種低層住居専用地域 | 30%~60% | 低層住宅中心、ゆとりある街並み |
第二種低層住居専用地域 | 30%~60% | 小規模店舗も可能 |
第一種中高層住居専用地域 | 30%~60% | 中高層住宅中心 |
第一種住居地域 | 50%~80% | 住宅と店舗・事務所が混在 |
建ぺい率の緩和条件
建ぺい率が緩和される条件:
- 角地緩和:+10%
- 道路が2方向以上に接する角地
- 防火地域の耐火建築物:+10%
- 防火地域内の耐火建築物
- 両方の条件を満たす場合:+20%
- 角地 + 防火地域の耐火建築物
注文住宅の建築面積の平均と目安
全国平均データ
住宅金融支援機構が発表している「2022年度 フラット35利用者調査」(全国平均)によると、フラット35で注文住宅融資を利用した人の住宅面積(平均値)は122.8平方メートルです。
注文住宅の建築面積目安:
住宅タイプ | 延床面積平均 | 建築面積の目安 | 坪数換算 |
---|---|---|---|
注文住宅(土地あり) | 122.8㎡ | 70~80㎡ | 21~24坪 |
土地付き注文住宅 | 111.5㎡ | 60~70㎡ | 18~21坪 |
建売住宅 | 101.9㎡ | 55~65㎡ | 17~20坪 |
家族構成別の建築面積目安
快適に暮らすための建築面積の目安:
家族構成 | 延床面積目安 | 建築面積目安 | 間取り例 |
---|---|---|---|
夫婦2人 | 75~90㎡ | 40~50㎡ | 2LDK~3LDK |
夫婦+子ども1人 | 90~110㎡ | 50~60㎡ | 3LDK |
夫婦+子ども2人 | 110~130㎡ | 60~70㎡ | 3LDK~4LDK |
夫婦+子ども3人 | 130~150㎡ | 70~80㎡ | 4LDK~5LDK |
地域別の特徴
都市部と地方の違い:
- 都市部:土地価格が高いため、建築面積は小さく、3階建てで延床面積を確保
- 地方:土地にゆとりがあるため、建築面積を広く取り、平屋や2階建てが中心
建築面積を最大限活用するポイント
設計での工夫
1. 建ぺい率緩和の活用
- 角地の選択(+10%緩和)
- 耐火建築物の検討(防火地域で+10%緩和)
2. 突出部分の有効活用
- 1m以内のひさしで日除け効果
- バルコニーでの外部空間確保
- 玄関ポーチでアプローチ空間の充実
3. 縦方向の活用
- 容積率に余裕がある場合は3階建ても検討
- 地下室の活用(容積率緩和あり)
- ロフトや小屋裏収納の活用
間取りの最適化
効率的な間取りのポイント:
- 廊下面積の最小化
- 中廊下よりも片廊下
- リビング階段の採用
- 水回りの集約
- 配管効率の向上
- メンテナンス性の向上
- 多目的空間の活用
- リビングと和室の一体利用
- 書斎兼寝室の計画
コスト効率の考慮
建築面積とコストのバランス:
- 建築面積が大きい = 基礎・屋根面積が増える = コスト増
- 延床面積重視 = 3階建てで建築面積を抑制 = コスト効率向上
- 将来の増築可能性を考慮した計画
よくある質問と注意点
Q1: カーポートは建築面積に含まれますか?
A: 柱と屋根があるカーポートは建築面積に含まれます。建ぺい率をオーバーしないよう注意が必要です。ただし、自治体によって取り扱いが異なる場合があるため、事前確認が重要です。
Q2: 出窓は建築面積に含まれますか?
A: 出窓は以下の条件を満たせば建築面積に含まれません:
- 出窓の下端の高さが30cm以上
- 外壁面から50cm以上突き出ない
- 出窓の見付面積が当該外壁面積の1/10以下
Q3: 吹き抜けがある場合の建築面積は?
A: 吹き抜け部分も含めて建築面積を計算します。吹き抜けは建築面積には影響しますが、床がないため延床面積(容積率)には影響しません。
Q4: 地下室は建築面積に含まれますか?
A: 地下室は建築面積に含まれません。ただし、地上に突出する部分(ドライエリアなど)がある場合は、その部分は建築面積に算入されます。
Q5: 建築面積の測定で注意すべき点は?
A: 以下の点に注意が必要です:
- 外壁の中心線で測定(内法ではない)
- 柱がある場合は柱の中心線
- 突出部分の1m後退ルール
- 自治体による取り扱いの違い
注意点とトラブル防止
1. 確認申請前の十分な検討
- 建ぺい率・容積率の詳細計算
- 突出部分の正確な測定
- 将来の増築計画との整合性
2. 自治体との事前相談
- 建築基準法の解釈は自治体により異なる場合がある
- 特殊な形状の建物は事前相談が重要
- 完了検査での指摘を避けるための準備
3. 設計変更時の影響確認
- 軽微な変更でも建築面積に影響する場合がある
- バルコニーやひさしの追加・拡張
- 外構工事でのカーポート追加
まとめ
建築面積は注文住宅の設計において極めて重要な概念です。建ぺい率という法的制限と直結するため、正確な理解なしには理想の住まいを実現できません。
建築面積の重要ポイント:
- 基本概念:建物を真上から見た面積(水平投影面積)
- 計算方法:最も広い階の面積+突出部分(1m超の部分)
- 法的制限:建ぺい率による上限規制
- 設計への影響:間取り・コスト・住み心地に直結
成功する注文住宅のために:
- 土地選びの段階から建ぺい率を確認
- 建築面積と延床面積のバランスを考慮
- 突出部分を活用した外部空間の確保
- 専門家との十分な相談
建築面積を正しく理解し、効率的に活用することで、限られた敷地の中でも快適で機能的な住まいを実現できます。注文住宅の計画初期段階から建築面積を意識した設計を心がけましょう。
参考文献:
- 住宅金融支援機構「2022年度 フラット35利用者調査」
- 国土交通省「令和5年度住宅市場動向調査報告書」
- 総務省「令和5年住宅・土地統計調査」